株式会社JEL

TOPICS

JAB主催の第1回EMC技能試験が終了

Issue 7
2000年04月03日

あらまし

昨年8月から本年1月末までの7ヶ月に渡って行われていました、財団法人 日本適合性認定協会 (以下JABと称す) 殿主催の「第1回EMC技能試験」が終了し、その説明会が3月31日に開催されました。この技能試験とは、ISO/IEC Guide 25 (ISO/IEC 17025) で規定されている試験所相互間の試験の比較 (Interlaboratory test comparisons)、および試験所の技能試験 (Laboratory proficiency testing) に該当するもので、この言葉が示すとおり、試験所の試験遂行能力を保証するための手段として定義されています。
即ち、ISO/IEC Guide 25 (ISO/IEC 17025) に従った運営をする試験所は、必要に応じてこれらに相当する外部プログラムへの参加、あるいは自らの責任で実施するなどの方策が要求されます。
EMC分野での過去の実施例を見ますと、オーストラリアの認定機関である「NATA」は、1994年09月〜1998年02月の期間、20ヶ所のNATA認定試験所を対象にProficiency Testを実施しており、1999年12月にその報告書が発行されています。なお、このプログラムは、NATA認定試験所に対して強制的に行われたものでありますので、NATA認定試験所である当社もこれに参加しています。また、イギリスのUKAS (当時はNAMAS) においても同様のプログラムが実施された経緯があります。なお、これらプログラムの対象ですが、あくまで当該認定機関が認定した試験所のみを対象に行われたものであり、広く不特定の試験所に対して行われたものではありません。即ちプログラム実施の共通条件として、「ISO/IEC Guide 25で運営されている認定試験所であること」がその大前提にあります。従って、この実施目的は、「認定試験所の試験遂行能力を確認すること」、および「認定試験所間の試験データ相関性を確認すること」の2つにあることは明らかです。
今回のJAB主催の技能試験は、不特定のEMC試験所に対して任意の参加形式で行われたものです。従って、前述のNATAなどのそれとは若干異なります。しかし、いずれにしても、日本において、EMC分野で43もの試験所 (サイト) が参加して行われたこのようなプログラムは過去には例がなく、大変意義深いことと感じています。また、これを契機に今後さらなる内容の充実がはかられることを切望します。

供試体

York Electronics Center社製のノイズ発生器 (CNE) が使用されました。参加43サイトを2グループに分けて、2台のCNEを循環することで行われましたが、残念なことにそのうち1台は途中で故障したため、最終的には3台のCNEで実施されています。

技能試験の方法

測定項目 測定内容
放射妨害波試験 サイト: オープンサイト or 電波暗室
試験温度: 5〜30℃
測定周波数: 30/120/300/500/1000 MHz
検波: IF 120kHz Quasi-peak
CNE配置: GRP上高さ80cm
想定距離: 3m
受信アンテナ: 同調ダイポール (但し、80MHz以下は80MHz同調長)
測定器: CISPR 16-1適合品
測定法: アンテナ1〜4mの最大値を測定
伝導妨害波試験

測定周波数: 0.15/10/30 MHz
検波: IF 9kHz Quasi-poeak
CNE配置: CNE-LISN間は80cm、基準金属面から40cm
測定器: CISPR 16-1適合品

直接接続試験 測定周波数: 放射および伝導妨害波試験の各周波数
検波: 放射および伝導妨害波試験に同じ

統計手法

今回の試験の目的は、参加した試験所の中で平均値と標準偏差を求め、その値との比較で参加試験所の占める位置を把握する事にある。従って、結果の評価はJIS Q 0043-1 4.3 共同実験方式のZ-スコアで行っている。また、異常値の検出は、APLACなどで採用されているロバスト (Robust) 法を用いている。

結果

*(下表は、JAB最終報告書よりの抜粋であり、弊社にて編集したものです。

JAB発行の最終報告書を基に、弊社にて結果をサマライズしたものを下表で示します。表の縦軸は参加試験所 (コード) を示し、横軸は試験の項目を示します (RE: 放射妨害波、CE: 伝導妨害波)。この表では下記のZ-スコアの何れかが「不満足」(ISO/IEC Guide 43-1により、Z-スコアの絶対値が3以上) であれば、該当する試験所の「Z判定欄」に「#印」が表示されています。

  • 各所平均値のロバスト法 Z-スコア
  • 各所平均値の従来法 Z-スコア
  • 放射妨害波試験で各所平均値の室間精度、室内精度のロバスト法 Z-スコア

即ち、「#印」のない参加試験所のデータの方が、各所平均値からのばらつきが少ないことを意味しています。ちなみに、下表での弊社の試験所番号は「F0110」ですので、このことからも日頃より信頼性の高い試験データをご提供できているものと確信しております。

Test Lab
code
RE (d=3m) H&V
CE
Direct
Facility
type
Antenna
used
for
RE
Labs,
which
have
no
# mark
30M
120M
300M
500M
1G
 
f<30
f>30
Z
Y
Z
Y
Z
Y
Z
Y
Z
Y
Z
Z
Z
F0101
 
 
#
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
 
F0102
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
*
F0103
 
 
 
 
 
 
#
#
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
 
F0104
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F0105
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
#
AR
Dipole
 
F0106
#
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
 
F0107
 
 
 
 
 
 
 
#
 
 
 
 
 
AR
Dipole
 
F0108
 
 
#
#
 
 
 
#
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
 
F0109
 
 
 
 
 
 
 
#
 
 
 
 
 
AR
Dipole
 
F0110
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
*
F0111
 
 
 
 
#
#
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
 
F0112
 
 
#
#
 
 
 
#
#
#
 
 
 
AR
Dipole
 
F0113
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F0114
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
#
 
 
AR
Dipole
 
F0115
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
n/a
 
 
 
Dipole
 
F1101
#
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
 
F1102
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F1103
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F1104
#
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
 
F1105
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F1106
#
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
 
F1107
 
 
#
#
#
#
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
 
F1108
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F1109
#
#
 
 
 
 
 
#
 
 
 
#
 
OATS
Dipole
 
F1110
 
 
 
#
 
 
 
 
 
#
 
 
 
AR
Dipole
 
F1111
#
#
#
#
#
#
 
 
 
 
 
 
 
AR
Broad
 
F1112
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
*
F1113
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
#
 
AR
Dipole
 
F1114
 
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
 
F1115
 
 
 
 
 
 
 
#
 
 
 
#
#
 
Dipole
 
F1116
 
 
 
#
#
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Broad
 
F1117
#
#
#
#
#
#
#
#
#
#
 
 
 
AR
Dipole
 
F1118
#
#
 
 
 
 
 
 
 
#
 
 
 
AR
Dipole
 
F1201
#
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
 
F1202
 
 
 
 
 
#
 
 
 
 
#
 
 
OATS
Dipole
 
F1203
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
#
 
OATS
Dipole
 
F1204
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
#
 
AR
Dipole
 
F1205
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
#
#
AR
Dipole
 
F1206
 
 
 
#
 
 
 
 
 
 
 
 
 
OATS
Dipole
 
F1207
#
#
#
#
#
#
#
#
#
#
 
 
 
AR
Dipole
 
F1208
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F1209
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
AR
Dipole
*
F1210
 
#
#
#
#
#
 
 
 
 
 
#
 
OATS
Broad
 

【備考】

  1. 本リストはJAB技能試験最終報告書 (2000-03-21) の内容を基に弊社で編集したものです。
  2. Z-スコアの絶対値が3以上の場合に、当該試験所のZ判定欄に「#印」が表示されている。
  3. 放射妨害波電界強度測定でユーデンプロットの95%楕円外の試験所については、「Y判定欄」に「#印」が表示されている。
  4. Z-スコアの絶対値が3以上でその値が大きい場合は「Z判定欄」「Y判定欄」双方に「#印」が表示されるが、Z-スコアの絶対値が3付近の場合はいずれか一方に「#印」が表示される。

今後の課題

前述しましたように、今回のJAB技能試験は、大変意義深いプログラムであったものと思います。特に43もの試験所 (サイト) が一つのプログラムに参加し、完結できたことの意義は大きいと思います。一方、これから取り組むべき課題を下記に記します。

  • 今回の放射妨害波測定は3m法のみで行われている。CISPR規格には3m法はなく、主流である10m法の評価が必要である。
  • 日常的に使用している測定機器を用いて評価すべきである。今回は半波長ダイポールアンテナの使用が指定されていたが、今時EMI測定でこのアンテナを使用している人は皆無に近い。
  • 今回のノイズ発生器 (CNE) はバッテリー駆動のため、サイトのEUT用交流電源が評価に含まれていない。電源インピーダンスに起因する放射妨害波のレベル変動などの問題は、評価に含まれていない。
  • 今回のような広帯域ノイズ発生器 (CNE) を用いた場合、受信器の前段にプリアンプなどを使用していると、それが飽和する恐れがある。(受信器の前段にプリアンプを入れること自体がCISPR 16-1から逸脱しているが・・・。)
  • 今回のプログラムはノイズ発生器を用いて、指定された周波数を測定するものであり、試験所の本来の試験遂行能力 (当該規格の適合試験が適切に行えるか否か) を評価する内容ではなく、どちらかと言えば、試験所間の相関性を把握するのが主目的である。この観点から、本来の能力試験 (Proficiency Testing) を行う必要があるのではないか?
  • 実施した技能試験の結果に問題があった場合 (今回は各所平均から20dB以上も外れている試験所も存在している)、その是正を参加者の任意に任せておいていいか? (技術的な改善がその試験所だけで本当に可能か?)
  • ISO/IEC Guide 25の認定を取得している試験所とそうでない試験所のデータを識別しないでいいか?少なくとも認定試験所であるか否かの識別は付けるべきではないか?
  • 今回のプログラムの放射妨害波測定では、ダイポールアンテナ (80MHz以下は80MHz同調長、80MHz以上は共振長) を用いることが条件となっていたが、広帯域アンテナで測定された試験所が3ヶ所存在します。理由はわかりませんが、このような基本条件からの逸脱は認めるべきでないし、これらの結果を同列に扱ってしまっていることにも問題はあると思う。測定の条件はプログラムへの参加を募集する段階で明示すべきである。

詳しくは、下記までお問い合わせ下さい。

【予約デスク】総合問い合わせ窓口
TEL: 04-7188-6381
FAX: 04-7188-6382
e-mail: otoiawase@jel.co.jp